大腸がんの腹膜播種(ふくまくはしゅ)は、大腸がんのステージIVにあたり、抗がん剤もほとんど効かないと言われています。腹膜播種とは、内臓をつつんでいる腹膜の中に、臓器の壁を突き破ったがんが種をばらまいたように散らばり、芽吹いてしまっている状況です。
実際、私の兄は2023年8月に大腸がんで亡くなりましたが、同じ年の1月にステージⅣの大腸がんであることが発覚し、4月初めに切除するために腹部を開いたところ腹膜播種が見つかって、何もせずに撤退。「余命4カ月」の宣告を受け、5月に人工肛門をつける手術、6月から抗がん剤治療を開始しましたが効果は見られず、主治医は匙を投げ。それでも続けられた抗がん剤の副作用に苦しみながら、亡くなっていきました。
ただ兄の主治医が特別ダメだったわけではありません。
日本では、ほぼ100%の医師が、大腸がん腹膜播種と戦うことを諦めている現状があります。
そんななか、国立国際医療研究センター病院の合田良政医師は、諦めずに立ち向かっている東日本唯一の医師です。
合田医師の治療法の一つは「腹膜切除」。がんが発生している部分(大腸)のほかに、がん細胞がばら撒かれている臓器(脾臓ひぞう、胆嚢たんのうなど)や腹膜の切除まで徹底的に行い、肉眼でがん細胞を確認できる部分(少なくとも2.5mm以上)を全て切除します。そんなに沢山切除したら、内臓がなくなって生きていられないじゃないかと心配になるところですが(実際、多くの主治医は、同様の理由で切除を諦めます)、「切除するのは病気がある部分のみなので大丈夫」と合田医師は言います。
でも、腹膜切除には限界があります。
徹底的にがんを切除しても、肉眼での確認が難しい2.5mm未満の微小ながんは取り逃がしてしまう可能性が高いのです。
そこで、合田医師が行っているのが、取りきれなかった腫瘍を死滅させ、治癒(腫瘍のすべてを取り除いて再発を防止する)をめざすための「HIPEC:ハイペック」です。
HIPECとは術中腹腔内温熱化学療法(Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy )、抗がん剤治療の1つで、抗がん剤を溶かした生理食塩水を42℃程度に温めて、腹中に投与。約1時間かけて抗がん剤を腹中に循環させることで、目に見えないがんを死滅させる方法です。
合田医師は、腹膜切除とHIPECの合わせ技に「現状では治癒の可能性が見込める唯一の治療法」と手ごたえを感じていますが、残念ながらHIPECを行う場合、治療は保険適用外となり、自己負担額は10割負担の自由診療です。また、腹膜切除とHIPECを組み合わせた治療効果はまだ証明されていないため、国立国際医療研究センターでは大腸がんの腹膜播種に対するHIPECを実施できない状況です。
「取り切れなかった見えないがんを死滅させる、HIPECに代わる治療法はないだろうか」--合田先生は探し求めていました。
そこで私は、岩本英希医師の「動注化学療法」を紹介しました。
腹膜播種に限らず、すべての癌は動脈から栄養されて大きくなるので、その動脈が分かりさえすれば、直接抗癌剤をがんに届けることができる方法です。
合田医師からはすぐに
「情報提供ありがとうございます。恥ずかしながら存じ上げませんでした。 すごい先生がいるもんですね」との返信がありました。
それが2024年12月。
明けて2025年。私は、岩本英希医師と合田良政医師、二人の「諦めないがん治療」に取り組む医師をつないで、”再発を繰り返す手ごわいがん”である肝臓がんと、”なすすべなく”兄の生命を奪った大腸がん腹膜播種への反撃に転じることにしました。
兄が亡くなった時、兄嫁は泣きながら言いました。
「どうして、私のような普通の人間でも、大切な人の生命にかかわる情報を入手できる日本じゃないんでしょう?」
どんなに頑張っても、最後に悔いが残るのが、家族を看取った側の心境だと思います。
私もずっと、「兄を助けるために、もっとできることがあったんじゃないか」と悩み続けています。
「極標準治療普及プロジェクト」は一つの答えです。
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医療ジャーナリスト ひろみんの仕事部屋
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